呪いの言葉「母は強し」に飲まれる前に
親という生物は自分で自分を虐めるような行為をけっこうあっさり
簡単にやってしまうのに、なぜかそれを覚えていない。
マルチタスクに忙殺されていたり、「やっぱり子供は可愛い」と記憶が上書きされて「うん、今日も大丈夫だった。なんとかなった。」
と、気持ちをお片付けしてしまうような気がする。
その日、息子のキンダーガーデンから連絡があった。
ずっと咳をしているようなので、小児科へ連れて行ってコロナの検査などをしたほうがいいのでは?と保健室の先生に言われ、心配になり小児科を予約してからキンダーガーデンへお迎えに行った。
息子に「すぐお医者さんに行こうよ」と伝えると、息子は火だるまの様に激怒して泣いた。
いつもキンダーガーデンの帰り寄って遊ぶ公園に行けなくなるのが嫌で、激しく抵抗して道の真ん中で喚いていた。
息子が言うには、「今日は公園で友達と遊ぶ約束をしてる!僕と彼はたった1人の友達同士なので、約束を破るわけには行かない!!破ったら友を失う!!」
とのこと。吉田松陰か。
6歳児って本当、毎日に命かけてる。
息子の異常なまでの友情への忠誠(?)には敬服する。
しかし、押しても引いても一向に動かず(物質的にも精神的にも)長時間そうしていたので、結局、小児科の予約時間には間に合わなかった。調べた限り、熱も咳もなかった。着けていたマスクが心地悪くて咳をしていただけらしかった。
夫に玄関先まで出てきてもらい息子を任せたあと、「思ってたより疲れちゃったから、10分くらい一人でいるわ」と伝えて、車のリクライニングを倒してみたらスー・・と眠ってしまった。
40分くらい寝てしまった。身体中が寒くて起きた。
家に入ると、子供達をお風呂場から裸で飛び出してきたところで、走り回りながら歌を歌っていた。
Naked runaway—-♪
ネイキッド ランナウェーイ------!!!
im gonna spank my butt!!!
子供達が1年前くらいから歌い出した曲なのだが、メロディもお伝えしたいくらい素晴らしい曲。
タイトルは Naked Runaway 『裸で逃げろ』
ロックだ。
可愛いくて、プレシャスで、普段ならここで一件落着
ああ、色々大変なことはあるけど、やっぱり子供は可愛いな。となるはずが
今回はこれでも、受け止めきれなかった。
冷え切っていた身体を温めるためにお風呂に入ると、涙が出てくる。
自分は母になってはいけなかったんじゃないか
母になれるような人間ではないのに、子供を2人も産んでしまった。ううう〜・・(泣)
極端なことを考えている自覚もあるが、理性より涙腺の方が活発になるから、お風呂という場所は素晴らしい。
私は時々「強くあるべき」という思い込みが猛獣になって頭を支配しているような気がする。
どこか遠い母親像が山のようにそびえたっていて、私はたどりつけないような・・
「強い」ってなんだろ。なんて雑な言葉だ。
そもそも私はどうして、母親が強くあるべきと思い込んでいるのか。
風呂上がりにふと「母は強し」と言う言葉を思い出した。
嗚呼、「母は強し」
母性神話のプロパガンダかなんかなのかな?
子供を持つと女は・・・
・痛みに強くなる
・ちょっとしたことでは動じなくなる
・四六時中子供を抱えているため、腕力がつく
・子供を守るためならなりふり構わず身を差し出す
「母は強し」と言葉を使う例をグーグルでざっと調べてみたけれど、
ちょっとピンとこない。女は子供を産むとゴリラになるという意味ではないと思う。
そして、当事者以外が使う時は用法用量を守ってくれないと危険な気がする。
言い出しっぺは「レ・ミゼラブル」の著者でフランスの政治家、ヴィクトル・ユゴーで、元は「女は弱し、されど母は強し」という言葉だったらしい。(現在だったら炎上しそう)
当事者どころか、文豪のおじ様だった。イラッw
どんな文脈で語られたのかが1番知りたいことだったのだが、どこにも載っていない。偉人の名言として「女は弱し、されど母は強し」だけが切り取られ出回っているだけだった。
こんな呪いの言葉をよくも何世紀も野放しにして使ってるもんだ、と呆れてしまった。
きっと、わたしが「母は強くあるべき」と思い込んでいる元凶は
ヴィクトル・ユーゴーなどではなくて、おそらく自分の母親。
母親の母親。
母親の母親の母親が先祖代々、子育てでひと段落するたびに「ああ、大丈夫だった。色々あったけどなんとかなった。結果、子供が笑っているから全てよし」と、記憶をお片付けし続けた末に子孫に伝え続けたのではないかと実体験をもとに推測する。
記憶のお片付けをするならば、どこにしまったのかわからなくなる方法は現代の整理収納文化ではご法度とされている。
忘れゆく記憶を今こそ整理整頓しようぞ。と、三年前に描こうとして放置していた漫画の1ページを掘り起こして、今更完成させることに挑戦している。
娘の授乳に明け暮れながら、オーディオブックで「サピエンス全史」をぼーっと聴いていた頃に思いついた物語。原始の彼方に忘れられていった親たちの、あんまり大丈夫じゃなかった物語。
当時は描ききれなかったけど、今なら描けそうな気がする読切32ページ。
いや、今描かねば、いつか私も新米ママだった頃のことを忘れちゃって、「母は強し」とほざいちゃうだろうから。
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